大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)3290号 判決

原告 服部良一

被告 川南新田耕作組合

被告補助参加人 愛知県知事

訴訟代理人 伊藤好之 外五名

主文

原告が別紙物件目録第六の土地につき所有権を有することを確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

第一本件池沼について

請求原因事実は当事者間に争いがない。そこで被告主張の時効の抗弁について判断する。

一  被告の土地を占有しうる能力について

弁論の全趣旨および〈証拠省略〉によれば、被告組合は、知多郡横須賀町大字大田(当時)に居住する川南新田の農地耕作者約一三〇名(昭和二三年四月当時)で構成され、川南新田の農業上の利用関係を調整し、耕作者の地位の安定と農業生産力の増強を図ることを目的とする組織であつて、組合規約を有し、その規約において、組合の目的、組合構成員の資格、総会の運営、組合役員の選任、対外的代表者の定め等を規定しており、実際にも昭和二三年頃から今日まで、社団としての実体において、右目的を実現してきたことが認められる。右事実によれば、被告組合は法人格こそ有しないが、いわゆる権利能力なき社団と考えるのが相当である。ところで、いわゆる権利能力なき社団の権利能力の範囲は、社団法人に準じて取扱われるので、社団が土地の占有をなしうる以上、被告組合も当然土地の占有をなしうるものといわねばならない。よつてこの点に関する原告の主張には理由がない。

二  被告の本件池沼の占有の事実について

〈証拠省略〉によれば、別紙物件目録第一、二、三、四の池沼は、もと原告の所有するところであつたが、第一の池沼については昭和二三年八月七日付で、第二、三、四の池沼については同二六年七月二日付でそれぞれ政府によつて買収され、それぞれ同日付で被告に売渡されたこと(但し、政府による右買収および売渡の効力の有無についてはここでは判断しない)、右本件池沼の占有はそれぞれその頃被告に移転したこと、本件池沼においては従来山田才一および深谷昇一が養魚をなしていたが、被告が本件池沼を取得後も、右両名による本件池沼を借用しての水面利用が続けられたこと、従つて被告の自主占有が続けられたこと、の各事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

〈証拠省略〉および弁論の全趣旨によれば、別紙物件目録第五の池沼は、原告が昭和二三年三月二一日付で財産税のためにこれを国(大蔵省)に物納し(但し、右物納の効力は、ここでは判断しない)、同二五年三月三〇日付で農林省へ所管換後遅くとも昭和二六年八月九日以前に別紙物件目録第二、三、四の池沼と前後して被告に売渡され、以後被告が右池沼と一体として自主占有を継続してきたことを認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

以上よりすれば、被告が少なくとも昭和二六年八月九日以降一〇年以上にわたつて本件池沼の占有を継続した事実が認められる。

三  自主占有開始の際の過失の有無について

前項にかかげた各証拠によれば、川南新田は、以前海水に覆われていたところを干拓によつて農耕地とされたのであるが、地盤が低いため海水が新田内に浸透することがあり、そのために生ずる塩害を防止するためいわゆる「潮よけ」と称する池沼が必要とされ、本件池沼は川南新田にとつて右「潮よけ」または遊水池として必要不可欠の農業用施設であること、従つて前記の如く被告は買収申請をなし、また政府もこれを被告に売渡したこと、ところが第二回目の売渡しがなされた直後に、本件池沼のもとの所有者であつた原告の番頭の神原与一から被告に対し、本件池沼には買収からもれた部分があるという話が出されたため、前記の如く本件池沼の買収・売渡しが二回に亘つてなされたこともあつて、不安を感じた被告は、間にたつた野田弁護士の示唆を受け、昭和二六年八月九日、原告の農地の買収に絡む問題を最終的に解決する金として金二六万円を神原与一に支払い、代りに、原告は爾後買収もれの土地が発見されても異議を述べない旨の覚書〈証拠省略〉を被告に交付したこと、而して原被告間には以後本件起訴まで本件池沼をめぐる紛争がなかつたことの各事実を認めることができ、右認定に反する〈証拠省略〉は採用できず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

以上に認定した事実の経緯に鑑みれば、被告が売渡しを受けた川南新田の随所に多数点在し、農業用施設として不可欠の本件池沼を、同じく政府によつて売渡されたとして被告がこれの占有を開始する際、所有の意思をもたなかつたとは到底考えられず、かえつて所有の意思をもつていたものと認めるのが相当であり、また所有の意思をもつて占有するにつき過失はなかつたと考えるのが相当である。

四  右一、二、三項によれば被告の時効取得の抗弁には理由があり、原告の再抗弁には理由がない。

よつて、本件池沼の買収手続および売渡手続の有効無効ならびに買収もれの有無を判断するまでもなく、原告の請求は失当として棄却を免れない。

第二別紙物件目録第六の宅地について

原告がもと本件宅地を所有していたことは当事者間に争いがない。

そして本件宅地が原告から深谷昇一へ、同人から被告へと順次売買されたことを認めるに足りる証拠はない。なお本件宅地は地番が九三番であるところ、〈証拠省略〉(委任状)および〈証拠省略〉(不動産売渡証書)に表示の物件の地番は三二番であり、〈証拠省略〉(不動産売渡証書)に表示の物件の地番は四一〇番であつて、仮りに〈証拠省略〉によつて九三番の土地と四一〇番の土地とが同一土地であることを証明しうるとしても、これらと三二番の土地の同一性が証明されない以上、被告の抗弁には理由がない。他に被告の抗弁を認めるに足りる証拠はない。

よつて被告の右宅地についての抗弁は失当であり、本件宅地についての原告の請求には理由があるのでこれを認容することとする。

第三以上の判断をなしたうえ、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 越川純吉 丸尾純良 杉本順市)

別紙物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例